タケノコの成長の秘密――1日で1メートル伸びる、驚異の植物の正体
春になると八百屋やスーパーの店頭に並ぶタケノコ。採れたてをさっと茹でて刺身で食べたり、炊き込みご飯や煮物に入れたりと、日本の食卓に欠かせない春の味覚のひとつです。居酒屋でも、アテとして人気ですね。
ところが、このタケノコがいかに不思議な植物であるか、意外と知られていません。「1日で1メートル伸びる」と聞いても、にわかには信じがたいほどの成長スピード。
今回は、そんなタケノコの秘密を食材の蘊蓄としてたっぷりご紹介します。
「筍」という漢字に隠された意味

出典:https://fumakilla.jp/foryourlife/
まず、タケノコの漢字からひもといてみましょう。タケノコは「筍」と書きます。この字をよく見ると、「竹」という字の下に「旬」という字が入っています。
「旬」とは、もともと10日間を意味する言葉です。上旬・中旬・下旬と、一か月を10日ずつ三つに分けるあの「旬」です。つまり「筍」という字は、「竹になるまでの命が10日しかない」こと、裏を返せば「10日もあれば竹に成長してしまい、食べごろを過ぎてしまう」ことを表しているとされています。
「旬(しゅん)の食材」という言葉とも重なり、タケノコがいかに短い間にしか味わえない食材であるかが、漢字一文字に凝縮されているわけです。古人の観察眼と表現力には、思わず唸らされますね。
竹はどんな植物なのか
そもそも竹はどのような植物なのでしょうか。竹はイネ科の常緑性多年生植物に分類されます。日本には約600種類、世界では約1,200種類もの竹が存在するといわれています。
私たちが食材としてよく目にするのは、主に孟宗竹(もうそうちく)と真竹(まだけ)です。孟宗竹は太くて肉厚で、スーパーで売られているタケノコの多くがこれにあたります。真竹はやや細めで、初夏に旬を迎えます。他にもメダケ(女竹)やハチク(淡竹)なども食用にされます。
竹の面白いところは、「木でも草でもない」という点にあります。木は年々幹が太くなり成長し続けますが、竹は1年目でほぼ成長が止まり、2年目以降は太さも高さも変わりません。かといって草のように一年で枯れることもなく、何十年もそのまま生き続けます。そのため植物学的にも独特の存在として扱われています。
タケノコの成長スピードは本当に速いのか
「タケノコは1日で1メートル伸びる」という話、これは誇張でも都市伝説でもありません。実際の記録として、孟宗竹で1日119cm、真竹で1日121cm伸びたというデータが残されています。
地表に出たばかりのころは1日数センチ程度のペースですが、成長のピーク時には1日1メートルを超えることも珍しくないのです。約30日で皮が全部剥がれて竹の姿になり、そこから約50〜60日で20メートル前後の高さになると成長がぴたりと止まります。
こんな笑い話があります。タケノコ狩りをした人が、掘ったタケノコの先っぽに帽子をのせて目印にしておいたところ、夕方に取りに行くと帽子が1メートル以上高いところに上がっていたので仰天した、というものです。冗談のような話ですが、これがあながち嘘ではないのがタケノコの恐ろしいところです。
なぜそんなに速く伸びるのか――成長の秘密その1「節の力」
タケノコがこれほど驚異的なスピードで伸びられる理由は、主に二つあります。まず一つ目は、「節(ふし)の構造」にあります。
多くの植物は、茎の先端にある「成長点」という部分だけで細胞分裂が行われ、そこだけが伸びていきます。ところが竹(タケノコ)の場合、先端の成長点に加えて、茎にある「すべての節」にも分裂組織があり、それぞれで同時に細胞分裂が行われるのです。
一本の竹には約60個もの節があるといわれています。それぞれの節が1日に数センチずつ同時に伸びるため、全体では驚くほどの成長量になります。先端だけで伸びる植物と比べると、まるで全身で一斉に成長しているようなものです。
タケノコの成長はよく「提灯(ちょうちん)を広げる」にたとえられます。下から上に向かって、折りたたまれた提灯を順番に広げていくようなイメージで成長していくからです。実際にタケノコを縦に割ってみると、すでに節が整然と並んでいることがわかります。竹になってからも節の数は増えず、タケノコの時点でその本数がすでに決まっているのです。
なぜそんなに速く伸びるのか――成長の秘密その2「地下茎からの補給」
二つ目の秘密は、「地下茎(ちかけい)」にあります。
多くの植物は、光合成によって自ら栄養をつくり出して成長します。ところがタケノコは、地表に出てきた段階では光合成に頼らず、地面の下に張り巡らされた地下茎から直接栄養分を受け取って成長します。竹林の中は木々に遮られて光があまり届きませんが、タケノコはそんな環境でも猛烈に成長できるのは、この地下茎のネットワークから栄養をもらっているからです。
じつは竹の「本体」は地上に見えている部分ではなく、地面の下に広がる地下茎だと考えることができます。孟宗竹の場合、竹が成長して高さが止まると、今度は地下茎が活発に伸び始め、約4ヶ月で7〜8メートルも延伸するとされています。その後、地下茎は光合成で作った栄養分を蓄積し続け、翌年の春に次のタケノコが地下茎の養分を吸収して一気に成長する、というサイクルを繰り返しているのです。
大地の下に張り巡らされたネットワークが、地上のタケノコを支えている――まるでインフラ設備のような仕組みです。
皮の数で成長量がわかる
タケノコを剥いたことがある方は、あの無数の皮の枚数に驚いたことがあるかもしれません。実はこの皮の枚数にも、科学的な意味があります。
タケノコの表面に見えるしま模様は、それぞれが「節」になる部分で、「成長帯」と呼ばれます。タケノコはこの節の数だけ成長し、成長するたびに皮が一枚ずつ剥がれていきます。つまり、しま模様の数と皮の枚数は一致しており、皮を数えるとその個体がどれだけ成長するかの目安がわかるのです。
タケノコを買うときに皮の枚数をそっと数えてみると、ちょっとした楽しみになるかもしれません。
竹林は「一個の植物」である
もう一つ、驚きの事実をご紹介します。竹林に生えている数十本、数百本の竹は、実はもともと「一本の竹」から広がったものです。地下茎が横に横にと伸びていき、各所からタケノコが出て竹になる――これを繰り返した結果が、あの広大な竹林なのです。
つまり、地上では独立した木のように見えても、地下では地下茎でつながった「一個の植物」と見なすこともできます。これが原因で、竹林の一本が病原菌などで感染すると、地下茎を通じて周辺の竹が連鎖的に枯れてしまうという現象が起きることもあります。
見た目には個々独立して見える竹ですが、その実態は地下でひとつながりの巨大な生命体――そう考えると、竹林の風景がまた違って見えてきませんか。
縄文時代から愛されてきた竹
「雨後の筍」「破竹の勢い」など、竹やタケノコにまつわることわざは日本語に数多く存在します。それだけ古くから日本人の生活と竹が密接に関わってきた証拠でしょう。実際、縄文時代の遺跡から竹かごなどの道具が出土しており、竹は日本人が最も古くから利用してきた植物のひとつです。
竹細工・建築材・筆・楽器・食器……と、竹の用途は枚挙にいとまがありませんが、食材としてのタケノコもまた、日本の食文化に深く根付いています。特に京都の西山地区などで採れる「京たけのこ」は最高級品として知られ、土壌と手入れにこだわった竹林から掘り出される一本は、料理人たちに珍重されています。
まとめ
タケノコの成長の秘密をまとめると、次のようになります。
– 「筍」という漢字は「10日で食べごろを過ぎる」という意味を持つ
– ピーク時には1日1メートル以上伸びる記録もある
– 約60個ある節がすべて同時に細胞分裂することで驚異的な成長を実現している
– 光合成に頼らず、地下茎から栄養を補給して成長する
– 皮の枚数=節の数で、成長量の目安がわかる
– 竹林全体が地下茎でつながった「一個の植物」
春の食卓にタケノコが並んだとき、ぜひこの話を思い出してみてください。あの素朴な食材の裏に、植物界屈指の成長戦略が隠されています。旬のうちに、その神秘の味をじっくりと楽しんでみてはいかがでしょうか。

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